お遍路(四国遍路、四国八十八ヶ所めぐり)における金剛杖の意味とは。

1200km・・・

この道のりを踏破した自分を、今でも信じられない。

第88番札所大窪寺まで一緒だった金剛杖は、先端が10cm以上短くなっている。

金剛杖上部の錦のカバーには、僕の右手が44日間握り続けていた痕跡が今なお残る。

結願後の金剛杖は、歩き遍路をしたことのない人に、歩き遍路の大変さをもっとも視覚的に伝えられるアイテムだ。

ときどき、自らの金剛杖を眺めると、歩いていたときの誇らしげな気持ちがよみがえる。

納経帳の墨書き・朱印は、車・バスで巡拝しても手に入れることはできる。

しかし、このくたびれた金剛杖の凄みは、千数百キロを自らの足で歩いた者にしか手に入れることはできない。

僕にとっての金剛杖は、すべてを無事に歩ききった誇りの象徴である。(もちろん、何事もなく歩かせていただいたという感謝の気持ちもあるが・・・)


スポンサーリンク
 

では、四国遍路において、金剛杖にはどのような意味合いがあるのであろうか。

難所も数多く存在する四国遍路において、金剛杖は、無論一般的な杖としての役目も十分に果たす。僕自身、金剛杖のおかげで助かったことは10回や20回ではすまない。

急勾配の山道を登るとき、すべって転倒しそうになったとき、まむしを追い払ったとき、何度も何度も金剛杖に救われた。

そして当然、金剛杖には宗教的な意味合いも込められている。

特に四国遍路においては、金剛杖は弘法大師の分身あるいは化身であり、遍路を導くといわれている。

「同行二人」すなはち、常に弘法大師がそばで見守ってくれているという四国遍路の根幹にある考え方がここにもあらわされているのだ。

弘法大師の分身とされる金剛杖は、大切に扱われ、宿についたらすぐに杖先を洗い床の間に置くのが作法とされる。(ほとんどの宿には玄関横に杖の洗い場がある。ただし現在は、傘たてのような杖置き場を設置している宿も多く、床の間まで金剛杖を持ちこむ人は少ない)

また、金剛杖は、行き倒れた遍路の墓標としての意味もあった。かつての四国遍路は命がけであり、道中亡くなる遍路も多く、集落の者たちが死者を葬ったといわれている。

ゆえに、金剛杖も白衣、菅笠とともに遍路の覚悟のしるしだったのである。

ちなみに、市販の金剛杖の多くは上部に刻みが入って五段に別れ、上から「空・風・火・水・地」をあらわす梵字が書かれている。

加えて、杖の胴体部分には「南無大師遍照金剛」「同行二人」の文字があり、種類によっては「般若心経」が書かれているものもある。

そして、自分の金剛杖には住所・氏名を記入しなければならないとされる。

木で作られ、上部が五段に別れ、梵字、経文、名前が書かれている・・・といえば、まさに卒塔婆である。

そのため、直に金剛杖を握らないように、上部は錦のカバーで隠してあるのが通常だ。


スポンサーリンク
 

ところで、金剛杖に関しては様々な「やってはいけない決まり」がある。

たとえば、金剛杖は橋の上でついてはならない。これは、弘法大師が橋の下でつらい野宿をした伝説から、寝ているお大師さまを起こさないようにという意味があるらしい。

また、金剛杖は使い続けると、次第に杖の先がささくれ立ってくるが、けっして切ってはならない。なぜなら、金剛杖のささくれは、弘法大師のつめと考えられているからだ。

僕は、あえて無視する気はなかったのだが、橋の上でもたびたび杖をついていたし、ささくれに関してもときどきアスファルトで削っていた。(あくまでハサミ等で切ってはいないと言い訳しておこう)

本音では、「僕は信者でもないし、あまりにも細かな決まり事というのは少々馬鹿げている」と思っていたのだ。

ただ、金剛杖はけっして自分以外の人間が使用したものは使ってはならない、という決まりについては厳守した。

他人のものを使うと、その人の業も一緒に引き継ぐことになるというのが理由であるそうだ。これには僕も納得できた。

業を引き継ぐという点の真偽は分からないが、少なくとも使っていたひとの念や気持ちは、杖に滲みこんでいる気がしたからだ。

金剛杖は、結願後に88番大窪寺に奉納するのが通常であるが、僕は大事に沖縄に持ち帰った。

特に、家宝にするためでもないし、死んだときに棺桶に入れてもらいたいわけでもない。冒頭でも述べたが、困難な道のりを歩ききった誇りの象徴としてだ。

これから先の僕の人生で、つらいことや悲しいことがあっても、この金剛杖をみるたびに誇りがよみがえり、力がわいてくることだろう。

もしかすると、家に置いておけば、僕が死んだ後、孫やひ孫が発見し、興味を持つかもしれない。

「ぼくも、四国を歩いてみたい」と・・・

金剛杖は、僕のロマンティックな妄想まで掻き立ててくれる。

(※市販の金剛杖は600円から1900円程度で購入できる)


スポンサーリンク
 

他の記事もよかったらどうぞ


コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ